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宮崎地方裁判所 平成7年(ワ)497号の1 判決 2000年5月29日

原告 A野太郎

<他3名>

原告兼原告ら訴訟代理人弁護士 伊藤芳朗

原告兼原告ら訴訟代理人弁護士 小野毅

原告兼原告ら訴訟代理人弁護士 平田広志

原告兼原告ら訴訟代理人弁護士 年森俊宏

原告兼原告ら訴訟代理人弁護士 中島多津雄

右原告ら訴訟代理人弁護士 西田隆二

被告 B山松夫

<他3名>

右訴訟代理人弁護士 小林俊康

右訴訟復代理人弁護士 富﨑正人

中島健仁

松田繁三

山尾哲也

主文

一  原告A野太郎に対し、連帯して、被告B山松夫は、金一一七七万円、被告C川竹夫及び被告D原梅夫は、それぞれ金一一〇〇万円、被告E田春夫は、金七七万円、並びに右各金員に対する平成七年一月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告B山松夫及び被告C川竹夫は、連帯して、原告A田夏子に対し、金五五万円及び右金員に対する平成七年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告B山松夫及び被告E田春夫は、連帯して、原告A田夏子、原告B野秋子及び原告B野冬夫それぞれに対し、金五五万円、原告伊藤芳朗に対し、金九〇万円、原告小野毅に対し、金四〇万円、原告平田広志、原告年森俊宏及び原告中島多津雄それぞれに対し、金二〇万円、並びに右各金員に対する平成七年一月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告A野太郎の被告らに対するその余の各請求、原告A田夏子の被告B山松夫、被告C川竹夫及び被告E田春夫に対するその余の各請求、原告B野秋子、原告B野冬夫、原告伊藤芳朗、原告小野毅、原告平田広志、原告年森俊宏及び原告中島多津雄の被告B山松夫及び被告E田春夫に対するその余の各請求、並びに、原告A田夏子、原告B野秋子、原告B野冬夫及び原告伊藤芳朗の被告D原梅夫に対する各請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告らと被告B山松夫との間に生じた分については、これを一〇分し、その七を原告らの連帯負担とし、その余を被告B山松夫の負担とし、原告A野太郎及び原告A田夏子と被告C川竹夫との間に生じた分については、これを一〇分し、その七を右原告らの連帯負担とし、その余を被告C川竹夫の負担とし、原告A野太郎、原告A田夏子、原告B野秋子、原告B野冬夫及び原告伊藤芳朗と被告D原梅夫との間に生じた分については、これを五分し、その四を右原告らの連帯負担とし、その余を被告D原梅夫の負担とし、原告らと被告E田春夫との間に生じた分については、これを一〇分し、その九を原告らの連帯負担とし、その余を被告E田春夫の負担とする。

六  この判決の第一項ないし第三項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告A野太郎に対し、各自金三四六五万円、原告A田夏子に対し、各自金三三〇万円及び右各金員に対する平成七年一月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告B山松夫、被告D原梅夫及び被告E田春夫は、原告B野秋子及び原告B野冬夫それぞれに対し、各自金三三〇万円、原告伊藤芳朗に対し、各自金五〇〇万円並びに右各金員に対する平成七年一月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告B山松夫及び被告E田春夫は、原告小野毅、原告平田広志、原告年森俊宏及び原告中島多津雄それぞれに対し、各自金二〇〇万円並びにこれに対する平成七年一月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、オウム真理教の教祖及びその信徒である被告らが、布施名目で多額の金員を提供させるために元旅館経営者である原告の一人を教団施設に拉致するとともに、同原告の娘を脅迫し、また、右拉致を隠蔽するために、同原告、同原告の親族及び同原告の救出を依頼された弁護士らに対し、記者会見の妨害、名誉毀損、誣告、不当な訴訟・人身保護請求を行い、財産的ないし精神的損害を与えたなどとして、原告らが、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。

一  当事者等(争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事実)

1  原告A野太郎(以下「原告太郎」という。)は、平成六年当時、その妻A野花子(以下「花子」という。)とともに、宮崎県小林市《番地省略》所在の「C田旅館」を経営していた。

原告太郎と花子との間には、長女の原告B野秋子(以下「原告秋子」という。)、三女のD野一江(以下「一江」という。)、四女のE山二江(以下「二江」という。)、五女の原告A田夏子(以下「原告夏子」という。)がいる(なお、二女は幼少時に死亡しているため、本件関係者は、一江を二女、二江を三女、夏子を四女と表している。)。

原告B野冬夫(以下「原告冬夫」という。)は原告秋子の夫であり、D野六郎(以下「六郎」という。)は一江の夫である。

2  A山七郎こと被告B山松夫(以下、「被告B山」という。)は、昭和五九年ころ、「オウム神仙の会」という名称の団体を設立し、昭和六二年ころ、その名称を「オウム真理教」に変更し、平成元年八月二九日、自らを代表役員として「宗教法人オウム真理教」の設立登記を行った(以下、宗教法人オウム真理教を「教団」という。)。なお、平成七年三月二二日の教団に対する強制捜査開始以降、被告B山をはじめとする多数の教団幹部が逮捕勾留され、教団は、東京地方検察庁検察官検事正及び東京都知事の請求に基づく解散命令(東京地方裁判所平成七年一〇月三〇日決定、東京高等裁判所同年一二月一九日抗告棄却決定、最高裁判所平成八年一月三〇日特別抗告棄却決定)によって解散し、さらに、同年三月二八日、東京地方裁判所において破産宣告を受けた。

3  被告C川竹夫(以下「被告C川」という。)、被告E田春夫(以下「被告E田」という。)及び被告D原梅夫(以下「被告D原」という。)は、平成六年当時、いずれも教団幹部であり、被告C川は東京本部長、同E田は教団の顧問弁護士兼法務部(後に「法務省」と称する。)の責任者、同D原は教団が運営するオウム真理教附属医院(東京都中野区所在。以下「AHI」という。)の医長であった。

二  争点

1  不法行為の成否

(原告らの主張)

(一) 原告太郎に対する拉致・監禁

被告B山、同C川、同D原及び同E田は、遅くとも平成六年三月中旬ころまでに、一江、六郎及び二江並びにオウム真理教信徒であるB川八郎、C原三江、D田四江、E野九郎及びA原十郎との間で、多額の金員をオウム真理教に提供させたり、預金等を不法に取得するために、原告太郎を拉致・監禁することを企て、その旨共謀の上、同月二七日及び二八日、同原告を拉致し、その後、同年八月二一日までの約五か月間、山梨県西八代郡上九一色村のオウム真理教施設内の通称第六サティアン(以下「第六サティアン」という。)と呼ばれる建物などに監禁した。

被告E田は、仮に、右拉致行為自体に関与していないとしても、同被告の教団内における立場上、原告太郎が何らかの強制力によって拉致されたことは容易に知り得たものであり、右監禁については過失責任がある。

(二) 原告夏子に対する脅迫

被告B山、同C川、同D原及び同E田は、原告夏子に対し、同太郎の救出を諦めさせることを企て、その旨共謀の上、平成六年四月六日午前六時ころ、同夏子が滞在するホテルにおいて、「事件のことをマスコミに言ったら、このカルテを公表して、あなたが精神異常者だと触れ回ってやる。」旨述べて脅迫した。

(三) 原告らの記者会見に対する妨害

原告秋子及び同小野を除く原告らは、平成六年九月一日午後二時から同四時までの間、宮崎市《番地省略》所在のビルにおいて、記者会見を実施したところ、被告B山、同E田、一江、六郎及び二江が、右記者会見を妨害することを企て、その旨共謀の上、一江、六郎及び二江において、大声や奇声を発して右記者会見の実施を妨害したため、約一時間遅れで記者会見を開始した。

(四) 不当訴訟

被告B山及び同E田は、原告太郎の拉致・監禁を隠蔽することを企て、その旨共謀の上、被告E田が、平成六年九月一日、東京地方裁判所に対し、教団及び被告E田を原告とし、原告太郎、原告伊藤芳朗(以下「原告伊藤」という。)、株式会社文藝春秋(以下「文藝春秋」という。)、江川紹子(以下「江川」という。)を被告として、以下の(1)及び(2)の虚偽の請求原因事実を掲げ、原告本人兼教団の訴訟代理人として不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した(平成六年(ワ)第一七四九六号損害賠償請求事件)。

(1) A野太郎は、(中略)、オウム真理教を不当に誹謗・中傷することを目的とした江川の右記事の執筆を幇助したものである。

(2) 伊藤は、悪意と偏見により虚偽の事実に基づき、平成六年九月一日記者会見を主催し、集まったマスコミ関係者らに、E田らが営利目的をもって、A野太郎の拉致・監禁に加担していたことを告げて、これを広く世間に知らせようとした。

(五) 記者会見による名誉毀損

被告B山、同D原及び同E田は、共謀の上、平成六年九月一日、同D原及び同E田において、東京地方裁判所内記者クラブにおける記者会見の席上、以下の(1)ないし(3)のとおり述べて、原告伊藤、同夏子、同秋子及び同冬夫の名誉を毀損した。

(1) 原告伊藤が平成六年九月一日に行った右(一)の拉致事件に関する告訴・告発及びこれに関する記者会見の内容は虚偽である。

(2) 原告夏子は、精神病であり、被害妄想的に事実に反することを述べており、また、二江が保管する通帳を盗んだ。

(3) 原告秋子及び同冬夫は、同太郎の権利証を盗んだ。

(六) 違法な人身保護請求

被告B山及び同E田は、原告太郎の拉致・監禁を隠蔽することを企て、その旨共謀の上、被告E田が、平成六年九月六日、宮崎地方裁判所に対し、一江、六郎及び二江を請求者、原告秋子、同冬夫及び同夏子を拘束者、同太郎及び花子を被拘束者として、人身保護法に基づく救済を右請求者らの代理人として請求した(平成六年人第一号人身保護事件)。

(七) 違法な告訴

被告B山及び同E田は、原告太郎、同伊藤、原告小野毅(以下「原告小野」という。)、原告平田広志(以下「原告平田」という。)、原告年森俊宏(以下「原告年森」という。)及び原告中島多津雄(以下「原告中島」という。)が何ら誣告罪及び名誉毀損罪に当たる行為を行っていないことを認識していたにもかかわらず、原告太郎の拉致・監禁を隠蔽することを企て、その旨共謀の上、被告E田が、平成六年一一月二一日ころ、宮崎県小林警察署に対し、同被告、一江、六郎及び二江を告訴人、原告太郎、同伊藤、同小野、同平田、同年森及び同中島を被告訴人とし、右被告訴人らによる同年九月の告訴・告発及び記者会見が誣告罪及び名誉毀損罪に当たる旨を告訴事実として、告訴を行った。その結果、右原告らは、右警察署において事情聴取された。

(八) 新聞による名誉毀損

被告B山及び同E田は、共謀の上、以下の(1)ないし(5)記載の内容の記事及び写真を掲載した「契約の書」と題する新聞を発行し、平成六年九月一九日から同月二一日までの間、株式会社東京放送(以下「TBS」という。)、日本テレビ放送網株式会社(以下「日本テレビ」という。)及び文藝春秋の各本社前路上ないし建物内、同月二一日、東京高等・地方裁判所前路上において、右新聞を通行人に配布し、もって、公然事実を摘示して、原告秋子、同冬夫、同夏子、同伊藤及び同小野の名誉を毀損した。

(1) 「資産目当ての長女夫婦」と題する「長女夫婦が父親の資産を意のままにしようと企み、父親に無断で父親所有の不動産の権利証を持ち出した。」「長女の夫は、大のパチンコ狂でフィリピン人女性を囲って家庭を顧みない放蕩者で、金遣いも荒い。」との記事。ただし、右記事中の「長女夫婦」とは、原告秋子及び同冬夫を指す。

(2) 「資産を狙う精神病の四女」と題する「父親の資産に対する四女の執着もすさまじい。旅館の宿泊料を自分の通帳に振り込むように要請したり、駐車場料金を強引に手中にしたり、三女のカバンから旅館名義の通帳を盗み出したりしている。」「四女はもともと精神病院に通い、交際相手が他の女性と付き合っていると邪推し、極度の被害妄想に陥る傾向がある。」との記事。ただし、右記事中の「四女」とは、原告夏子を指す。

(3) 「オウム真理教つぶしをたくらむ弁護士たち」と題する「オウム真理教関係者を営利誘拐罪であるとして父親による告訴を仕組み、記者会見の場で発表させた。」「違法な告訴をしてでもオウム真理教をつぶそうと陰謀をめぐらせる伊藤芳朗弁護士」との記事と原告伊藤の写真

(4) 「父親はウソを強制されている」と題する「父親は、彼らが作ったストーリーに沿って単に語らされているだけなのである。」「父親が『何をする!』と抗議した。」「資産を狙う長女夫婦と四女、オウム真理教つぶしを画策する被害者対策弁護団の弁護士たちの意図どおりに、記者会見で証言させられる父親」との記事と原告太郎の写真

(5) 「洗脳は、被害対策弁護団の常套手段」と題する「なお、被害対策弁護団の弁護士たちは、オウム真理教にいた人間を監禁したり洗脳したりして、その考えを強引に変えさせるといった手口に慣れている。今回父親の代理人として告訴状に名を連ねている小野毅弁護士などは、その常習者だ。」との記事

(九) ビデオテープによる名誉毀損

被告B山及び同E田は、共謀の上、右(八)の新聞と同内容の「TBS、日本テレビ、文春の陰謀、第一弾―彼らは何を意図しているのか―」と題するビデオテープを作成し、そのビデオテープ及び右新聞を報道機関各社、各地の警察署、各地の弁護士会等に郵送により配布し、もって、公然事実を摘示して、原告秋子、同冬夫、同夏子、同伊藤及び同小野の名誉を毀損した。

(被告B山の主張)

右(三)ないし(九)の各事実について、被告B山が共謀したことはいずれも否認する。その余の事実は不知。

(被告C川の主張)

右(一)の事実について、被告C川が一江から依頼を受けたことにより、原告太郎を眠らせて、第六サティアンに連れていったことは認め、その余は否認する。

右(二)の事実について、否認する。被告C川は、原告夏子に対し、説法をしたにすぎない。

(被告D原の主張)

右(一)及び(二)の各事実はいずれも不知。右(五)の事実について、被告D原が記者会見を行ったことは認めるが、その内容は不知。

(被告E田の主張)

右(一)及び(二)の各事実について、被告E田に関する部分は否認し、その余の事実は不知。

右(三)の事実について、被告E田に関する部分は否認し、その余の事実は不知。同被告は、一江に対し、記者会見の会場で原告太郎に対し呼びかけたらどうかと述べたにすぎない。被告E田は、右(一)の拉致監禁には関与していないので、右(三)の記者会見は同被告に対する名誉毀損に当たり、同被告の行為は相当性を有する。

右(四)の事実について、当該民事訴訟を提起したことは認め、違法性の主張は争う。

右(五)の事実について、同被告及び同D原が記者会見を行ったことは認め、(1)ないし(3)の各事実はいずれも否認する。

右(六)の事実について、当該人身保護請求をしたことは認め、違法性の主張は争う。

右(七)の事実について、当該告訴を行ったことは認め、違法性の主張は争う。原告太郎らが被告E田を営利誘拐で告訴したことは誣告罪に当たる。

右(八)の事実について、被告E田が当該新聞の作成に関与したことは認め、その余の事実は不知。

右(九)の事実について、同被告が当該ビデオテープの作成に関与したことは認め、その余の事実は不知。

2  損害

(一) 原告太郎の損害

(原告太郎の主張)

(1) 慰藉料 三〇〇〇万円

前記1(原告らの主張)(一)で述べたとおり、被告らは、原告太郎を薬物を用いて拉致し、五日間意識を失わせた上、同原告の預金を引き出そうとした。また、同原告は、被告らによって監禁された第六サティアンやAHIにおいて、食事を充分に与えられず、大量の塩水を飲まされたり、鼻と口に麻ひもを通されたり、熱湯に入れさせられるなどの修行を強いられ、殺害されるとの不安を持ち続けた。さらに、前記1(原告らの主張)(三)、(四)及び(七)記載の各不法行為により精神的苦痛を受けた。以上の精神的苦痛を慰藉するには、右(一)につき三〇〇〇万円、同(三)につき二〇〇万円、同(四)につき一〇〇万円、(七)につき一〇〇万円を下らないものであり、原告太郎は被告らに対し、右合計金額三四〇〇万円のうち三〇〇〇万円を請求する。

(2) 逸失利益 一六五万円

原告太郎は、被告らによって拉致されたことにより、平成六年一一月までの約八か月間旅館を営業することができなかった。その間の同原告の逸失利益は、過去三年間の平均年収二四八万円に照らすと、一六五万円である。

(3) 弁護士費用 三〇〇万円

(4) 合計 三四六五万円

(被告B山、同C川の主張)

争う。

(被告D原の主張)

不知

(被告E田の主張)

逸失利益について否認する。慰藉料について争う。

(二) 原告夏子の各損害

(原告夏子の主張)

(1) 慰藉料 三〇〇万円

原告夏子は、前記1(原告らの主張)(二)、(三)、(五)、(六)、(八)及び(九)記載の各不法行為により、精神的苦痛を受けた。以上の精神的苦痛を慰藉するには、右(三)につき二〇〇万円、(二)、(五)、(六)、(八)及び(九)につきそれぞれ一〇〇万円を下らないものであり、原告夏子は被告B山、同C川、同D原及び同E田に対し、右合計金額七〇〇万円のうち三〇〇万円を請求する。

(2) 弁護士費用 三〇万円

(3) 合計 三三〇万円

(被告B山、同C川、同E田の主張)

争う

(被告D原の主張)

不知

(三) 原告秋子の損害

(原告秋子の主張)

(1) 慰藉料 三〇〇万円

原告秋子は、前記1(原告らの主張)(五)、(六)、(八)及び(九)記載の各不法行為により、精神的苦痛を受けた。以上の精神的苦痛を慰藉するには、右(五)、(六)、(八)及び(九)につきそれぞれ一〇〇万円を下らないものであり、原告秋子は被告B山、同D原及び同E田に対し、右合計金額四〇〇万円のうち三〇〇万円を請求する。

(2) 弁護士費用 三〇万円

(3) 合計 三三〇万円

(被告B山、同E田の主張)

争う

(被告D原の主張)

不知

(四) 原告冬夫の損害

(原告冬夫の主張)

(1) 慰藉料 三〇〇万円

原告冬夫は、前記1(原告らの主張)(三)、(五)、(六)、(八)及び(九)記載の各不法行為により、精神的苦痛を受けた。以上の精神的苦痛を慰藉するには、右(三)につき二〇〇万円、右(五)、(六)、(八)及び(九)につきそれぞれ一〇〇万円を下らないものであり、原告冬夫は被告B山、同D原及び同E田に対し、右合計金額六〇〇万円のうち三〇〇万円を請求する。

(2) 弁護士費用 三〇万円

(3) 合計 三三〇万円

(被告B山、同E田の主張)

争う

(被告D原の主張)

不知

(五) 原告伊藤の損害

(原告伊藤の主張)

慰藉料 五〇〇万円

原告伊藤は、前記1(原告らの主張)(三)ないし(五)及び(七)ないし(九)記載の各不法行為により、精神的苦痛を受けた。以上の精神的苦痛を慰藉するには、右(三)につき二〇〇万円、(四)、(五)、(七)ないし(九)につきそれぞれ一〇〇万円を下らないものであり、右合計金額七〇〇万円のうち五〇〇万円を請求する。

(被告B山、同E田の主張)

争う

(被告D原の主張)

不知

(六) 原告小野、同平田、同年森、同中島の各損害

(原告小野、同平田、同年森及び同中島の主張)

慰藉料 各二〇〇万円

原告小野は、前記1(原告らの主張)(七)ないし(九)記載の各不法行為により、同平田、同年森及び同中島は、同(三)及び(七)記載の各不法行為により、それぞれ精神的苦痛を受けた。以上の精神的苦痛を慰藉するには、右(三)につき各二〇〇万円、(七)ないし(九)につき各一〇〇万円を下らないものであり、原告小野、同平田、同年森及び同中島は、被告B山及び同E田それぞれに対し、右各合計金額三〇〇万円のうち二〇〇万円を請求する。

(被告B山、同E田の主張)

争う

第三争点に対する判断

一  オウム真理教の組織と教義

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

1  被告B山は、自ら最終解脱者(グル)であると称し、同被告の導きによって修行することが、解脱を達成する唯一の道であると説いた。その修行においては「グル」である同被告に対する絶対的な帰依が求められ、同被告は教団内で絶対的な存在となっていた。さらに、出家信徒は、同被告(グル、「尊師」)以下、「正大師」「正悟師」「師長」「師」「サマナ」などの階級(ステージ)に区分され、上位のステージにある信徒からの指示は絶対とされていた。すなわち、オウム真理教は、同被告を頂点としたピラミッド型の階層組織を形成し、同被告の意思が絶対とされ、その指示によって教団意思が形成されていた。

2  オウム真理教は、被告B山の説法によりその教義が構成されているところ、例えば、同被告は、平成六年三月二七日に教団杉並道場(東京都杉並区所在)において、「では、タントラ・ヴァジラヤーナにおける財の考え方とはどうであろうかと。これはラトナサンバヴァの法則と呼ばれる法則がある。ラトナサンバヴァの法則とは何かというと、もともと財というものは個人に帰納するものではない、帰納とは個人がそれを所有する、そしてこれはわたしのものであると呼ばれるものではない、と断定する。(中略)ではこれに対して、ラトナサンバヴァつまり、黄色い真理勝者方はどうお説きになるのかと。財は善、あるいは徳のために使うべきであると、財は悪のためにあるいは不善不悪のために、つまり善でも悪でもないもののために使うべきではないと。そして、善・徳のために、もし財を使うことができるとするならば、それは盗み取ってもいいんだという考え方である。」と説いている(「ヴァジラヤーナコース教学システム教本」に掲載)。平成六年ころ、教団において被告B山の説法をもとに作成されたとみられる「信徒庁決意」には、「タントラ・ヴァジラヤーナは、グルの意思の実践がすべてだ。それ以外は無効である。功徳にならない。グルの指示がすべてだ。それ以外は無効である。功徳にならない。タントラ・ヴァジラヤーナは、結果の道である。したがって、結果のためには手段を選ぶ必要がない。なぜならば、凡夫を悪趣から解放し、自分自身も最終の解脱悟りに到達すればいいからである。手段はその手続にすぎない。よって、いっさいの観念を捨てるぞ。いっさいの観念を捨てるぞ。そして、タントラ・ヴァジラヤーナの実践を行うぞ。」「導きのできない信徒には、しっかりと布施の実践を徹底させるぞ。」「よって私はラトナサンバヴァの法則を実践させるぞ。」「もともと財そのものは三グナの変形した形である。したがって、これは誰の所有でもない。この誰の所有でないものを真理のために使うとするならば、それは最高の功徳となる。逆にこの誰の所有でもない財が、煩悩を増大するために使われているとするならば、それは断じて救済の障碍である。」「したがって、はぎ取るぞ、はぎ取るぞ。身ぐるみはぎ取って、偉大なる功徳を積ませるぞ。」などと記載されている。

このように、教団においては、被告B山の意思の実現がすべてであるとして絶対的な帰依を求め、同被告の指示があれば、布施を得るためには犯罪行為も辞さないという危険な教義を有していた。

3  教団においては、平成五年一二月ころ、被告B山の指示の下、同被告の脳波をパソコンを通じて電極を付けたヘルメットに送り、これを頭に被ることによって修行が急速に進むという「パーフェクト・サルヴェーション・イニシエーション」(「完璧な解脱」という意味。以下「PSI」という。)という新たなイニシエーションが開発され、同被告は、支部活動をしていた弟子達に対し、「このPSIを受け続ければ、それだけで必ずデータが変わり解脱するから、どんなに無理してでもお布施をさせて、多くの信徒に受けさせろ。」という旨の指示を出し、布施を集める活動を開始させた。PSIを受けるために必要な布施の額は、一週間で一〇〇万円以上、無期限で一〇〇〇万円以上であるとされていた。そして、被告B山は、同C川ら支部活動の責任者達に対し、ラトナサンバヴァの法則を根拠に、「財は無常だから、真理のために集めるんだ。無理矢理はぎ取っても功徳になる。」などと説き、一週間に一、二回、右責任者らを集めて、布施の集金額や集金予定額を報告させて、競争心を煽っていた。その結果、オウム真理教の布施集めの活動は、激しいものとなっていった。

二  本件事実経過について

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

1  原告太郎が拉致された経過

(一) 原告太郎は、妻花子や娘の一江、二江、原告夏子が教団の在家信徒であり、花子の強い勧めがあったので、平成二年ころ、オウム真理教を信じるつもりはなかったが、形式的に教団に入信した(なお、原告夏子は、平成五年一一月、脱会した。)。花子は、平成五年一月一五日、くも膜下出血で倒れて宮崎県内の病院で手術を受け、同年五月からAHIに入院し、同年一〇月からは杉並道場や第六サティアンに滞在していた。原告太郎は、平成五年八月末ころから、宮崎県小林市内に所有する土地を同市土地開発公社に対し売却する交渉を行っていたところ、平成六年三月六日に右土地を代金九一四一万円で売却する旨の契約が成立し、同月九日、右代金のうち二七〇〇万円が鹿児島銀行小林支店の原告太郎名義の預金口座に、同月二九日、残代金六四四一万円が宮崎銀行小林支店の原告太郎名義の預金口座にそれぞれ振り込まれた。

(二) 被告C川は、教団の信徒担当の責任者の一人であるA本一男から、原告太郎が土地売却により多額の金員を手に入れるが、自主的には布施をしないとみられたことから、麻酔薬で眠らせ自宅から拉致してAHIに連行し、PSIを受けさせて布施をさせる計画(以下「本件拉致計画」という。)があることを知った。その後、被告B山は、同C川に対し、本件拉致計画についてA本一男を手伝うように指示した。そこで、被告C川は、同D原に対し、本件拉致計画を打ち明け、同D原とAHIの看護婦の協力を依頼した。同D原は、これを承諾し、AHIの看護婦であったC原三江(以下「C原」という。)に対し、本件拉致計画への参加を指示した。また、被告C川は、教団福岡支部長D田四江(以下「D田」という。)に対しても、本件拉致計画を説明し、その了解を取り付けた。さらに、被告C川は、一江及び二江に対し、原告太郎に薬物を使用して眠らせてでも、AHIに連れて行って、PSIを受けさせた上、布施をさせることが功徳になる旨述べて、これに同意するよう執拗に説得し、原告太郎の体力について心配していた一江に対しては、医師である被告D原からも説得させた。A本一男は、平成六年一月初めころ、被告B山の指示により本件拉致計画から外れ、以後、同C川が中心となって右同計画を進めることとなったが、同被告が他の活動により多忙となったので、右計画は中断した状態となった。

(三) 二江は、平成六年三月三日ころ、東京から戻ってC田旅館の手伝いをしており、同月六日の原告太郎と小林市土地開発公社との売買契約に立ち会ったことから、売買代金総額が九一四一万円であり、その数日後に右代金のうち二七〇〇万円が鹿児島銀行小林支店の原告太郎名義の預金口座に、同月末までに残代金六四四一万円が宮崎銀行小林支店の原告太郎名義の預金口座にそれぞれ振り込まれることを知り、その旨を東京にいる一江に連絡するとともに、同月二〇日ころ、小林市の職員から、同月二九日ころ残代金を振り込む旨の連絡を受けて、これを一江に伝えた。

(四) 一江は、同月二六日、AHIの医師であったB川八郎(以下「B川」という。)に対し、本件拉致計画の実行を依頼し、翌二七日午前、杉並道場において、被告C川に対しても、同日に同計画を実行するように求め、原告太郎が間もなく右売買代金を手に入れることを伝えた。そこで、被告C川は、同日に説法するために杉並道場に来た同B山に対し、本件拉致計画を実行する旨を上申し、出家信徒のA原十郎(以下「A原」という。)をC田旅館に行かせ、指揮を執らせることを申し出たところ、同B山は、同C川が中心となって同計画を実行することを最終決定し、その旨指示したので、同C川は、A原、B川、一江に対し、本件拉致計画を同日に実行する旨伝え、二江に対しては、一江からその旨伝えさせた。

(五) B川、C原、一江は、被告C川の指示で、同日午後二時ころ、杉並道場を発ち、空路で宮崎空港に到着し、同日午後七時ころ、一江からの電話連絡で二江が準備したC田旅館別館に入った。他方、被告C川は、D田と連絡を取り、本件拉致計画を実行する旨伝えた上、原告太郎を運ぶためのワゴン車及び被告C川らが乗るための乗用車を準備すること、D田は運転手とともに先にC田旅館に向かうことなどを指示し、D田は、ワゴン車を準備した上、教団福岡支部の信徒であったE野九郎(以下「E野」という。)にワゴン車を運転させて、C田旅館に向かった。被告C川はA原とともに、同日午後二時ころから杉並道場で行われた同B山の説法会に出席し、その後、信徒との面談をしてから、同日夕方、空路福岡空港に向かい、同空港から、教団福岡支部が用意した車に乗り、A原が運転してC田旅館に向かった。

(六) B川、C原、一江は、C田旅館に到着後、原告太郎を眠らせるために、睡眠薬をうこん茶に混ぜて飲ませることとし、同日午後一〇時ころ、二江が、睡眠薬を混ぜたうこん茶を同旅館本館の原告太郎の居室に持参し、原告太郎に勧めて飲ませた。そのころ、D田とE野は、C田旅館別館に到着し、被告C川とA原も、同日午後一一時半ころ、同旅館別館に到着した。

(七) 同日午後一一時四五分ころ、被告C川らは、原告太郎をC田旅館本館の居室から連れ出すことにし、C原が睡眠薬によって眠っている同原告の右腕に睡眠薬を静脈注射し、被告C川、A原、B川が、半昏睡状態の同原告の身体を持って、ワゴン車に運び込んだ。ワゴン車には、B川、C原、二江が乗車し、同原告は睡眠薬等の点滴を受けた状態で、二江の運転により、同月二八日午前零時ころ、AHIに向けて出発した。その後、被告C川は、一江に対し、同原告のために教団へ六〇〇〇万円の布施をするよう執拗に説得したが、一江は二〇〇〇万円が限度であると考えたことから、これに難色を示した。

(八) 原告太郎を乗せたワゴン車は、同日午前七時四〇分ころ、岡山県内の中国縦貫自動車道を走行中、二江が運転を誤って自損事故を起こし、走行不能となった。右連絡を受けた被告C川は、一江を同原告の付添いとして東京に行かせる代わりに二江を呼び戻し、同女を説得して六〇〇〇万円の布施をさせることにし、一江に対し、杉並道場に行くよう指示した。二江は、被告C川に呼び戻され、B川とC原は、同自動車道新見インターチェンジ付近で他のワゴン車に乗り換え、行き先をAHIから第六サティアンに変更し、同日午後七時ころ、同所に到着した。

2  原告太郎が拉致された後解放されるまでの経過

(一) 二江は、被告C川の説得により、六〇〇〇万円の布施を承諾し、被告C川の指示のもと、同月二九日及び三〇日、宮崎銀行橘通支店等において、原告太郎名義の預金口座から一〇〇〇万円の払戻しを試みたが、名義人本人の意思を直接確認することができないという理由で払戻しを断られたため、右払戻請求を断念した。なお、被告C川は、同月二九日、京都市内に滞在していた同B山に対し、本件拉致計画の実行状況を報告した。その後、同B山は、本件拉致計画の担当者を変更し、A本一男に対し、原告太郎と面談して布施をさせるように指示した。

(二) 原告太郎は、同月三一日、脳梗塞の治療のために連れられてきたことを装うために第六サティアンからAHIに移された。そのころ、原告秋子、同冬夫は、同太郎がAHIに連れて行かれたことを知り、翌四月三日ころ、同夏子にこれを伝えた。一方、一江、二江は、宮崎銀行小林支店との間で、原告太郎名義の預金の払戻しについて交渉し、その結果、同月四日に同支店の行員がAHIにまで来ることになった。原告太郎は、同行員に対し、一江夫妻から借りていた六二五万円分と当座に必要な一二〇万円分の預金の払戻請求書を作成して交付し、翌五日、二江が同支店に行って、右払戻請求書によって預金を引き出した。ただし、右金員のうち、一二〇万円は、一江及び二江による預金引出しを防ぐために同支店を訪れた原告夏子が預かり、六二五万円は二江が受け取った上、布施としてA本一男を通じ被告B山に届けられた。

(三) 原告太郎の安否を心配した原告夏子と同冬夫が、同日、AHIにまで出向き、同太郎と面会し、B川に対し、同太郎の退院を求めたが、B川は、被告B山の許可がないことを理由にこれを拒否した。AHIの医師らから被告E田を通じ右事態を知った同B山は、同日、まずB沢二男を原告夏子の説得に当たらせたが、これに失敗したことから、さらに被告C川とA本一男に対し、「お前達、ホテルへ行って何とかしろ。」と指示した。そこで、被告C川は、翌六日、原告太郎を再び第六サティアンに移すように指示した上、同夏子に対し、同太郎を救出することを諦めさせるため、翌六日午前六時ころ、東京都新宿区内のホテルにおいて、原告夏子がかつてAHIに入院していた際に作成されたカルテを示し、同太郎の退院を求めるのであれば、右カルテをマスコミに公表して同原告が精神異常者であると言い触らすかのように述べて脅迫したが、その説得に失敗した。

(四) 原告夏子及び同冬夫は、同日、同伊藤に対し、同太郎の救出について依頼し、同伊藤は、同日以降、AHIの医師らに対し、原告太郎との面会を求めた。これに対し、AHIのC林医師は、被告E田が交渉の窓口となる旨述べ、被告E田は、同月七日、同月一二日、同月一八日、原告伊藤に対し、原告太郎との面会や同原告の所在を明らかにすることを拒否し、同月一八日には、原告太郎の声を録音したカセットテープを同伊藤宛に送付した。なお、原告伊藤は、同月一二日の電話の際、同太郎を同夏子に会わせなければ、被告E田らを告訴する旨通告した。

(五) 一江は、同年八月初旬ころ、被告D原に対し原告太郎の帰宅を願い出たところ、被告D原からその旨を伝えられた同B山は、許可をしなかった。しかし、一江が、同月中旬ころ、再び同D原に対し原告太郎の帰宅を強く願い出たので、被告D原は、同B山にその旨を伝えたところ、同被告から同E田に相談した上で原告太郎を帰宅させるように指示された。そこで、被告D原が、同E田に対し、原告太郎の帰宅について相談すると、被告E田から、原告太郎にオウム真理教に感謝する内容の手紙を書かせることと、右手紙を朗読するビデオを作成させることを指示されたため、そのとおり行った。そして、原告太郎は、同月二一日、ようやく第六サティアンから解放され、花子及び一江とともに空路で宮崎市に帰り、宮崎空港で、同夏子や同冬夫によって保護された。これに対し、一江は、被告E田に対し、原告太郎及び花子を宮崎空港で奪われた旨を伝えた。

3  原告太郎が解放された後の経過

(一) 原告伊藤は、平成六年八月三一日、報道機関各社に対し、翌九月一日に宮崎市内において、被告E田らオウム真理教の信徒六名を原告太郎に対する営利誘拐等の事実により告訴告発することを発表する記者会見を行う旨の通知をした。また、文藝春秋は、同日、「週刊文春」同月八日号において、原告太郎がオウム真理教の信徒らによって拉致監禁され、財産の布施をさせられたこと等を内容とする江川執筆の記事を掲載した。同記事中には、「目を覚ましたら東京のオウムの病院にいたんです。これはえらい所に入れられてしまったと、びっくりしました。体はピンピンしていて、どこも具合は悪くありませんでした。」など、原告太郎がオウム真理教によって拉致されたことを印象づける原告太郎のコメントが多数引用されている。

(二) 被告E田は、同年八月三一日に、翌日に右(一)記載の記者会見が行われることと、翌日発売の週刊文春に拉致事件の記事が掲載されることを知るや、同B山に報告した。そして、同B山は、同E田、同D原及び同C川を呼び、これらの動きに対抗すべく、原告太郎を教団施設に連れてきたのは医療活動として行ったこととし、教団も記者会見を行うほか、原告らよりも先に原告らの主張は虚偽であるとして訴えを提起するなどの方針を示し、子細を被告E田に委ねた。そして、同被告は、翌九月一日、同D原と空路宮崎市に出向き、宮崎空港において、一江、六郎、二江及び連れて来た被告C川と会し、同E田及び同D原が中心となって、原告太郎が病気で倒れたのでAHIまで搬送したという虚偽の筋書きを作り上げることについて謀議し、被告E田は、二江及び一江に対し、原告太郎のAHIへの入院依頼書を平成六年三月二七日付けで作成させ、一江、二江、六郎に対し、右(一)の記者会見を妨害する旨指示した。そして、原告秋子及び同小野を除く原告らが、同日午後二時から、宮崎市《番地省略》所在のビルにおいて記者会見を実施しようとしたところ、一江、六郎及び二江が右記者会見場に乱入したり、屋外からハンドマイクを用いて抗議するなどして右記者会見の開始を約一時間遅らせるなどその実施を妨害した。

(三) 被告E田は、同年九月一日、東京地方裁判所に対し、右(一)記載の原告伊藤の記者会見の通知及びその実施内容並びに「週刊文春」に掲載された江川の記事は事実に反し、オウム真理教及び被告E田の名誉を毀損し、社会的評価を低下させたとして、教団の原告太郎、同伊藤、文藝春秋及び江川に対する損害賠償請求並びに同被告自身の原告伊藤に対する損害賠償請求の訴訟を教団の訴訟代理人兼原告本人として提起した(平成六年(ワ)第一七四九六号損害賠償請求事件。以下「本件民事訴訟」という。)。右訴訟は、いわゆる休止の後、訴えの取下げがあったものとみなされ、訴訟係属が消滅した。

(四) 被告E田及び同D原は、右訴訟提起後、東京地方裁判所内記者クラブにおいて教団として原告らに反論する記者会見を行い、原告太郎が病気で倒れたのでAHIまで搬送した旨の虚偽の説明を行った。

(五) 被告E田は、代理人として、同月六日、宮崎地方裁判所に対し、一江、六郎及び二江を請求者、原告秋子、同冬夫及び同夏子を拘束者、原告太郎及び花子を被拘束者として、人身保護法に基づく救済を請求した(平成六年人第一号人身保護事件。以下「本件人身保護請求」という。)。本件人身保護請求は、同月一二日、取り下げられた。

(六) 教団では、同月半ばころから、被告B山の許可のもとで、当時既になされてきたTBS、日本テレビ、文藝春秋の反オウム的報道に反論するビデオテープ(以下「本件ビデオテープ」という。)を作成することが計画され、同E田とE海六江(教団郵政省所属)が進行役を務め、被告D原とB川が医学的な解説を担当し、二江と一江がA野家の内部事情を説明する構成をとることにした。本件ビデオテープの作成と並行して、ビデオテープのシナリオになるような形で、別紙一の1ないし5記載の各記事を中心とする新聞(以下「本件新聞」という。)の執筆、編集も進められ、被告E田も情報提供の形で関与した。本件ビデオテープは、約一〇〇〇本、本件新聞は数千部作成されて、報道機関各社や小林警察署を含む各警察署に配布され、また、同月一九日から同月二一日までの間、TBS(東京都《番地省略》所在)、日本テレビ(東京都《番地省略》所在)及び文藝春秋(東京都《番地省略》所在)の各本社前路上ないし建物内、同月二一日、東京高等・地方裁判所(東京都千代田区霞が関一丁目一番四号所在)前路上において、本件新聞を通行人に配布し、もって、公然事実を摘示して、原告冬夫、同秋子、同夏子、同伊藤、同小野の名誉を毀損した。

(七) 原告伊藤、同平田、同小野、同年森、同中島は、同月二六日、小林警察署に対し、原告太郎を告訴・告発人、一江、六郎、二江、B川、被告E田及び同C川を被告訴・告発人とし、右被告訴・告発人らが、別紙二に記載された事実のとおり、営利誘拐罪、有印私文書偽造罪、同行使罪、詐欺未遂罪に該当する行為を行ったことを告訴・告発事実とする告訴・告発状を、右告訴人の代理人として提出した。

(八) 平成六年八月末ころまでに教団で作成されていた原告太郎のカルテにおいて、既にリンド(可逆性虚血性神経脱落。脳虚血性発作による症状が二四時間以上持続するが、三週間以内に消失するものをいう。)という虚偽の病名が付けられており、翌九月から一一月ころまでにかけて、被告E田、同D原、B川が中心となって、カルテを書き直し、原告太郎がリンドで倒れてAHIまで搬送したという虚偽の筋書きを完成させ、一江、二江、六郎、C原に対し、警察の取調べに対処させるため、右筋書きに沿った演技、元警察官であるE野や被告E田による模擬取調べ、麻酔薬のチオペンタールを用いた記憶の確認を行うなどして、徹底的な証拠堙滅行為を行った。

(九) 被告E田は、同年一〇月二七日、小林警察署に対し、被告E田、一江、六郎及び二江を告訴人、原告太郎、同伊藤、同小野、同平田、同年森及び同中島を被告訴人とし、右(七)記載の告訴・告発が誣告罪に該当し、原告伊藤及び同太郎が右(二)記載の記者会見において、右告訴・告発を内容とする告訴・告発状、記者会見レジュメ及び原告太郎の陳述書を報道機関各社に配布した行為が名誉毀損罪に該当するとする告訴状を、告訴人兼他の告訴人の代理人として提出した(以下「本件告訴」という。)。右告訴状は、同年一一月二一日に受理された。被告E田は、同B山に右告訴をした旨報告した。

三  争点1(不法行為の成否)について

1  争点1(一)(原告太郎に対する拉致・監禁)について

(一) 前記認定事実によれば、被告B山の命を受けた同C川を中心として、一江、六郎、B川、C原、D田、A原、E野の間に、原告太郎にPSIを受けさせ、多額の金員を教団に布施させる目的で、同原告を薬物で眠らせ自宅から教団施設に拉致する旨の共謀が順次成立し、右共謀に基づき、同C川らが、前記日時場所において、同原告を薬物により半昏睡状態に陥れ、自宅から第六サティアンに連れ込んだものであり、右不法行為は、教団に布施をさせるために財産を奪うことが、財産を奪われた者にとっても救済になるという被告B山の特異な論理のもとに、同C川が実行者の役割分担を決め、教団の人的物的組織を用いて行われた組織的・計画的犯行である。したがって、被告B山及び同C川が、右不法行為について共同不法行為責任を負わなければならないことは明らかである。

(二) 被告D原の不法行為責任について検討する。

《証拠省略》によれば、同被告は、平成六年三月一八日ころから同年四月七日ころにかけてアメリカ出張に出かけており、本件拉致の実行には直接には加わっていないことが認められる。

しかしながら、前記認定事実のとおり、被告D原は、同C川から、本件拉致計画への協力を求められた際、自らこれに参加する旨承諾し、AHIの看護婦であるC原に同計画に参加するように指示し、その後も、一江に対する説得に当たるなどしているのであって、本件拉致の実行に加わらなかったのは、右計画の実行が延期され、たまたま同被告の出張と重なったからにすぎない。また、《証拠省略》によれば、被告D原は、本件拉致計画が実行された後に帰国し、C原から同計画が実行されたことについて報告を受けた際、被告B山に対し、自己に連絡なく、本件拉致計画にAHIのスタッフが利用された上、ずさんな計画で同スタッフを危険な目にあわせたことについて苦情を申し立てたことが認められるが、本件拉致計画の実行自体について異議を述べたことを窺わせる証拠はない。

そうすると、被告D原は、他の前記共謀者らに対し、共謀関係から離脱すべき意思を表したことはないのであるから、たとえ拉致・監禁の実行行為に参加しなくとも、右共謀に基づいて行われた不法行為について全ての責任を負わなければならない。

(三) 被告E田の不法行為責任について検討する。

被告E田は、本件拉致計画の共謀及び実行のいずれにも関与したことを否認し、《証拠省略》及び同被告本人における供述は、大要次のとおりである。

すなわち、同被告は、平成六年四月六日に、一江及びAHIのスタッフから、原告夏子や同冬夫が同太郎に面会を求めて争いになっていることについて相談を受け、同太郎がAHIに入院していることを初めて知ったこと、それまでにもあった教団と信徒の親族との争いと同様に考えて、教団の顧問弁護士として原告伊藤と交渉したが、その時点では、原告太郎が拉致されて来たことを知らなかったこと、同年八月三一日、その翌日に原告らが本件拉致事件について被告らを告訴する旨の記者会見を行うことと、翌日発売の「週刊文春」(平成六年九月八日号)に右事件の記事が掲載されることを知り、被告D原に事実関係を確認したところ、右事実を否定すべき根拠を提示されなかったことから、財産を布施させる目的で原告太郎が拉致されたことは間違いないと認識したものである。

そして、被告E田が実際に本件拉致計画の共謀に参加したことを認めるに足りる証拠はなく、また、同被告が、平成六年四月六日に一江及びAHIのスタッフから相談を受けた際、原告太郎が薬物を投与されて拉致されたことについて説明を受けたかどうかは明らかではなく、《証拠省略》によれば、被告D原も、平成六年八月ころ、同E田が真相を知らされていないような印象を受けたと供述する記載があり、また、《証拠省略》によれば、一江も、同E田が同年九月二日一江に対し右拉致について質問した際「そんなことして欲しくなかったなぁ。」と述べていたと供述している記載があり、本件全証拠を検討してみても、被告E田の右供述を排斥するに足るだけの証拠は見出しがたい。

これに対し、被告E田は、花子が平成五年一月一五日にくも膜下出血により入院した翌日に、同B山の指示により、花子を見舞い、二、三日マントラを唱えたことがあり(争いがない。)、そのころ、教団は、C田旅館別館を道場にする計画を有し、原告太郎や花子に対し、右別館の土地建物を布施するように働きかけたり、布施しなければ花子が助からないかのように脅迫した旨原告らは主張する。しかしながら、本件拉致計画が計画されたのは、早くとも、原告太郎が小林市土地開発公社との間で土地売却交渉を開始した同年八月末以降であり、また、被告E田がC田旅館別館を道場にする計画に関与していたことを裏付ける証拠も本件ではないから、被告E田の花子に対する見舞いの事実から、本件拉致計画に関与していたことを直ちに推認することはできない。

また、被告E田が、平成六年当時、弁護士であったからといって、原告太郎に対し、同原告が拉致・監禁されたかどうかについて当然に調査すべき義務を負うとまではいえない。

以上から、被告E田は、原告太郎の拉致・監禁について、不法行為責任を負うものではないというべきである。

(四) よって、原告太郎の拉致・監禁については、被告B山、同C川及び同D原が共同不法行為責任を負う。

2  争点1(二)(原告夏子に対する脅迫)について

前記認定事実のとおり、被告C川が原告夏子を脅迫したことは否定できない。そして、被告B山は、原告夏子の直接の師であるB沢二男が同原告の説得に失敗し、尋常の説得には応じないことを容易に予見し得たにもかかわらず、さらに、特に同原告と面識もない被告C川らに対し、同原告を何としてでも説得するように命じており、被告C川らにとって、同B山の命令は絶対的なものであったことからすれば、同B山は、同原告に対する説得が脅迫の程度に及んでもやむを得ないと認容していたというべきである。したがって、被告C川が、原告夏子に対し、脅迫行為に及んだ以上、被告B山も、同C川とともに共同不法行為責任を負わなければならない。

しかし、被告E田が右脅迫に関与していたことについては、同C川本人の供述によってもこれを認めるに足りず、本件では他に右関与を窺わせる証拠は見いだせないから、同被告の不法行為責任を認めることはできない。

3  争点1(三)(原告らの記者会見に対する妨害)について

前記認定事実のとおり、一江、六郎及び二江は、前記二3(二)記載の記者会見の会場に乱入したり、屋外からハンドマイクを用いて抗議するなどして記者会見の実施を妨害しており、その態様が社会的に相当な範囲の抗議行動を越えていることは窺われる。しかしながら、右実施状況に照らすと、本件において、原告らがこれによって業務を妨害されたとして慰藉料の支払いを求めることができる程度までの違法性を基礎づける事情を窺うことはできず、これを認めるに足りる証拠はない。

よって、その余の点を判断するまでもなく、原告らのこの点に関する請求はいずれも理由がない。

4  争点1(四)(不当訴訟)について

民事訴訟の提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前判示したところからすると、被告E田は、遅くとも平成六年八月三一日ころには、原告太郎が財産の布施をさせる目的で拉致されたことは間違いないと認識しており、同B山の指示を受けて、原告太郎の拉致・監禁を隠蔽するために、あえて原告らの主張は虚偽であるとして本件民事訴訟を提起したものであるといえる。もっとも、この点について、前記のとおり、被告E田が本件拉致計画に関与したことを認めるに足りる証拠がないことから、原告伊藤の記者会見の内容及びその通知のうち、被告E田の関与部分について、同被告が事実に反するとして名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟を提起することは、一見正当な行為のようにもみえる。しかしながら、前記認定した本件民事訴訟の提起に至る経緯に照らすと、本件民事訴訟は、一体として原告太郎の拉致・監禁を隠蔽するためにあえて提訴されたものであるというべきであり、全体として、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き、違法であるといわざるを得ない。

よって、被告B山及び同E田は、本件民事訴訟について共同不法行為責任を負わなければならない。

5  争点1(五)(記者会見による名誉毀損)について

前記認定事実のとおり、被告E田及び同D原が、平成六年九月一日、東京地方裁判所内記者クラブにおいて教団として原告らに反論する記者会見を行い、病気で倒れた原告太郎をAHIまで搬送した旨の虚偽の説明を行ったことまでは認められる。しかしながら、右被告らが前記第二の二1(原告らの主張)(五)(1)ないし(3)記載の内容を述べたとする原告らの主張に沿う証拠は、原告伊藤本人の供述(甲五三の陳述書を含む。)のみであるところ、右供述は、被告E田が述べたとする内容につき自ら直接見聞したものではなく、報道機関から聞いた話として説明しているにすぎず、これを裏付ける客観的な証拠もないことからすると、右供述等のみから原告らの右主張を認定することはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

よって、原告らのこの点に関する主張は採用できない。

6  争点1(六)(違法な人身保護請求)について

人身保護請求が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該請求が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて請求をしたなど、その請求が人身保護請求手続制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。

本件についてみるに、前記認定事実からすると、本件人身保護請求は、本件民事訴訟と同様、被告E田が、同B山の指示のもと、原告太郎の拉致・監禁を隠蔽するために、請求の理由がないことを知りながらあえて請求したものであるというべきであり、人身保護請求手続制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き、違法であるといわざるを得ない。

よって、被告B山及び同E田は、本件人身保護請求について共同不法行為責任を負わなければならない。

7  争点1(七)(違法な告訴)について

告訴は、それにより他人の名誉その他の法益を害する危険を有するものであるから、犯罪の嫌疑をかけるのに相当な客観的根拠を十分に確認したうえでしなければならず、これを怠れば、不法行為責任を負わなければならないところである。

本件についてみるに、前記認定事実からすると、本件告訴は、本件民事訴訟と同様、被告E田が、同B山の指示のもと、原告太郎の拉致・監禁を隠蔽するために、犯罪の嫌疑をかけるのに相当な客観的根拠がないことを知りながらあえて行ったものであるというべきである。なお、被告E田の本件拉致計画への関与に関する部分についての告訴も、本件民事訴訟と同様、一見正当な行為のようにもみえるが、前記認定した本件告訴に至る経緯に照らすと、本件告訴は、一体として原告太郎の拉致・監禁を隠蔽するためになされたものであるというべきであり、全体として、告訴制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き、違法であるといわざるを得ない。

よって、被告B山及び同E田は、本件告訴について共同不法行為責任を負わなければならない。

8  争点1(八)及び(九)(新聞、ビデオテープによる名誉毀損)について

《証拠省略》によれば、本件新聞と本件ビデオテープは、ほぼ同一内容であり、いずれも、別紙一の1ないし5記載の内容を中心とするものであることが認められ、その内容からすると、原告秋子、同冬夫、同伊藤及び同小野に関する事実摘示及び評価は、右原告らの社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものといえる。

そして、前記認定事実のとおり、本件新聞及び本件ビデオテープは、平成六年九月ころ既になされてきたTBS、日本テレビ、文藝春秋の反オウム的報道に対抗するために、被告B山の許可のもとで、教団内部で組織的に作成されたものであり、同E田は、右作成にあたり情報提供を行っているほか、本件ビデオテープにおいては、進行役も務め、重要な役割を果たしたことが認められる。

よって、被告B山及び同E田は、本件新聞と本件ビデオテープの頒布による名誉毀損につき共同不法行為責任を負わなければならない。

四  争点2について

1  原告太郎の損害

(一) 慰藉料

前判示のとおり、被告B山、同D原、同C川は、原告太郎を薬物を用いて半昏睡状態に陥らせて拉致しており、その生命・身体に与えた危険性は大である。さらに、《証拠省略》によれば、原告太郎は、拉致後、約五か月という長期にわたって、第六サティアンやAHIに軟禁され、その間教団に逆らったら何をされるかわからないという不安感を常に持ち続けるとともに、熱心な信徒になった振りをするしか解放される方法はないと考え、オウム真理教の書籍やビデオを進んで求めたり、鼻の穴からひもを通してその後に湯を通す「鼻通し」、塩湯を大量に飲んで吐き出すことを繰り返す「胃洗浄」、塩湯を肛門から多量に出るまで飲み続ける「腸洗浄」などの苦行を受けていたことが認められる。以上の肉体的・精神的苦痛を慰藉するには、同原告の生命・身体に対する危険性の程度、その自由を束縛した程度、オウム真理教の危険な教義や右被告らの動機等その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、一〇〇〇万円をもって相当とする。

さらに、前記認定した事実経過からすると、原告太郎が本件民事訴訟及び本件告訴により、相当の精神的苦痛を被ったことが認められ、これらに対する慰藉料としては、被告B山、同E田の不法行為の動機、訴状や告訴状に摘示された事実や表現その他一切の事情を考慮すると、本件民事訴訟につき五〇万円、本件告訴につき二〇万円をもって相当とする。

(二) 逸失利益

《証拠省略》によれば、原告太郎は、昭和五二年ころ、C田旅館を購入したが、その旅館経営の業務については、花子に委ね、原告夏子、一江、二江がその手伝いを行っていたものであり、原告太郎が、約五か月間にわたって拉致・監禁された間も、旅館の経営はほぼ通常どおり継続していたことが認められる。したがって、原告太郎は、拉致されたことにより、直ちに旅館経営による収入を喪失したとまではいえないから、同原告の逸失利益を認めることはできない。

(三) 弁護士費用

本件事案の難易度、審理の経過、認容額など諸般の事情を考慮すると、原告太郎が負担する弁護士費用のうち、右各認容額の一割(合計一〇七万円)をもって前記被告らの各不法行為と相当因果関係のある損害と認める。

(四) 合計 一一七七万円

2  原告夏子の損害

(一) 慰藉料

前記のとおり、同原告は、被告C川から、AHIに入院していた当時のカルテを公表して同原告の名誉を毀損するかのように言われて脅迫行為を受けたほか、不当な人身保護請求をされ、また、本件新聞及び本件ビデオテープが頒布されたことによって、同原告の名誉が毀損され、多大の精神的苦痛を被ったことが認められる。これらに対する慰藉料は、各不法行為の態様など前記認定の諸事情を考慮すると、右脅迫行為につき五〇万円、本件人身保護請求につき三〇万円、本件新聞及び本件ビデオテープの頒布による名誉毀損行為につき二〇万円の合計一〇〇万円をもって相当とする。

(二) 弁護士費用

本件事案の難易度、審理の経過、認容額など諸般の事情を考慮すると、原告夏子が負担する弁護士費用のうち、右各認容額の一割(合計一〇万円)をもって前記被告らの各不法行為と相当因果関係のある損害と認める。

(三) 合計 一一〇万円

3  原告秋子、同冬夫の各損害

(一) 慰藉料

前記のとおり、同原告らは、不当な人身保護請求をされたほか、本件新聞及び本件ビデオテープが頒布されたことにより、同原告らの名誉が毀損され、それぞれ多大の精神的苦痛を被ったことが認められる。これらに対する慰藉料は、各不法行為の態様等前記認定の諸事情を考慮すると、本件人身保護請求につき各三〇万円、本件新聞及び本件ビデオテープの頒布による名誉毀損行為につき各二〇万円の合計各五〇万円をもって相当とする。

(二) 弁護士費用

本件事案の難易度、審理の経過、認容額など諸般の事情を考慮すると、原告秋子、同冬夫が負担する弁護士費用のうち、右各認容額の一割(合計各五万円)をもって前記被告らの各不法行為と相当因果関係のある損害と認める。

(三) 合計 各五五万円

5  原告伊藤、同小野、同平田、同年森、同中島の各損害

前記認定事実のとおり、原告伊藤は、本件民事訴訟、本件告訴並びに本件新聞及び本件ビデオテープの頒布により、同小野は、本件告訴並びに本件新聞及び本件ビデオテープの頒布により、同平田、同年森、同中島は、本件告訴により、それぞれ弁護士としての名誉を毀損され、警察の取調べを受けるなどの有形無形の損害を受けたことが認められる。これらに対する慰藉料は、各不法行為の態様等前記認定の諸事情を考慮すると、本件民事訴訟につき五〇万円、本件告訴につき各二〇万円、本件新聞及び本件ビデオテープの頒布による名誉毀損行為につき各二〇万円をもって相当と認める。

したがって、右原告らのそれぞれの損害合計額は、同伊藤が九〇万円、同小野が四〇万円、同平田、同年森、同中島が各二〇万円である。

6  以上をまとめると、別紙三の1「不法行為別損害額表」のとおりとなる。

五  結論

以上のとおりであるから、原告太郎の被告B山に対する請求は、一一七七万円、同原告の被告C川及び同D原に対する各請求は、それぞれ一一〇〇万円、同原告の被告E田に対する請求は、七七万円、原告夏子の被告B山に対する請求は、一一〇万円、同原告の被告C川及び同E田に対する各請求は、それぞれ五五万円、原告秋子及び同冬夫の被告B山及び同E田に対する各請求は、それぞれ五五万円、原告伊藤の被告B山及び同E田に対する各請求は、それぞれ九〇万円、原告小野の被告B山及び同E田に対する各請求は、それぞれ四〇万円、原告平田、同年森及び同中島の被告B山及び同E田に対する各請求は、それぞれ二〇万円、並びに右各金員に対する不法行為の後である平成七年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、原告夏子、同秋子、同冬夫及び同伊藤の被告D原に対する各請求は理由がないから棄却することとする。以上をまとめると、別紙三の2「原告被告別賠償額表」のとおりとなる。

(裁判官 菊井一夫 裁判長裁判官安藤裕子及び裁判官前田郁勝は、転補のため、署名押印できない。裁判官 菊井一夫)

<以下省略>

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